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NISTとEntraID認証基盤

NIST(アメリカ国立標準技術研究所)が提示するガイドラインと、Microsoft のEntra ID(旧称:Azure AD) を中心とした認証・認可基盤を組み合わせる際のポイントを記述します。特に NIST が示すデジタルアイデンティティ管理(NIST SP 800-63 シリーズ)と、Entra ID の具体的機能(MFA、条件付きアクセス、PIM 等)を対比しながら考察します。

NIST Cybersecurity Framework - set of standards, guidelines, and practices designed to hel

1. NIST のアイデンティティ管理ガイドライン

1-1. NIST SP 800-63 (Digital Identity Guidelines)

NIST SP 800-63 シリーズは、オンラインでのデジタルアイデンティティ(認証・証明・連携)に関する包括的なガイドラインです。大きく以下の 3 つの概念に分かれています。

  1. IAL (Identity Assurance Level):

    • “本人確認レベル”。ユーザーがアカウントを作るときの身元確認(KYC)プロセスがどの程度厳格かを定義。

    • 例: IAL1(最低限の確認)~ IAL3(厳格な身分証明書や対面確認を要求)など。

  2. AAL (Authentication Assurance Level):

    • “認証レベル”。ログイン時の認証手段の強度。

    • 例: AAL1(パスワードのみ)~ AAL2(MFA 必須)~ AAL3(ハードウェアトークン等の強力な MFA)。

  3. FAL (Federation Assurance Level):

    • “フェデレーションレベル”。他サービスとの連携において、ID トークンやアサーションをどれだけ安全にやり取りできるか。

    • 例: FAL1(ベーシックなトークン署名)~ FAL2(暗号化または強固な署名)~ FAL3(ハードウェアレベルの保護)。

企業が認証・認可基盤を構築する際、**必要とされる AAL(認証強度)や IAL(本人確認の厳格性)**を事前に想定し、それに合ったソリューションを選定することが推奨されます。

1-2. NIST SP 800-53 / CSF におけるアクセス制御関連

  • NIST SP 800-53 の AC(Access Control) ファミリ、IA(Identification and Authentication)ファミリでは、MFA や RBAC、ログ監査などを含む詳細なコントロール要件が定義されています。

  • NIST CSF では主に Protect (PR.AC - Access Control) の項目で、「ユーザーやデバイスが適切な権限で認証されているか」を統合的に管理することを推奨。

これらのコントロールを意識しつつ、組織のセキュリティポリシーに合致するよう、Entra ID(Azure AD)の機能を適切に設定することで、NIST が推奨するレベルのアイデンティティ基盤を構築できます。

2. Entra ID(旧 Azure AD)を使った認証基盤

2-1. 多要素認証 (MFA) と NIST AAL

  • Entra ID では、MFA(多要素認証)を強制する方法として、以下が代表的です。

    1. 条件付きアクセスで全ユーザー/特権ユーザーに MFA を必須化

    2. Security Defaults(デフォルトセキュリティ設定)を有効化し、すべての管理者アカウントに MFA を必須化

  • NIST SP 800-63 AAL(Authentication Assurance Level) と比較すると、Azure AD の MFA は原則 AAL2 に相当し、認証アプリや電話、ハードウェアキー(FIDO2)などを採用することで強度をさらに高められます。

    • 例:FIDO2 セキュリティキーや Windows Hello for Business(生体認証)で AAL3 相当を狙うケースも存在。

2-2. 条件付きアクセス (Conditional Access)

  • NIST では、リスクベース認証やロケーション / デバイス等の属性によるポリシーが AAL の要件を満たすうえで推奨される場合があります。

  • Entra ID の条件付きアクセスは、ユーザーのサインインリスク、IP アドレス、デバイスコンプライアンス状態などを判断基準として、MFA やアクセスブロックを動的に適用できます。

  • NIST CSF “Protect - Access Control (PR.AC-3)” や NIST SP 800-53 AC-2(適切な条件下でのみアクセス許可)と整合し、Zero Trust アーキテクチャに近づくための要となります。

3. Entra ID の高度機能と NIST のコントロール

3-1. Privileged Identity Management (PIM)

  • PIM を使うと、特権アカウント(Global Admin、Owner、User Access Admin 等)を「必要な時だけ一時付与」する Just-In-Time アクセスを実現。

  • NIST SP 800-53 の AC-6 (Least Privilege)、AC-2 (Account Management)、IA-2 (Identification and Authentication) などのコントロールを具現化する方法の一つ。

  • 特権操作を行う際に追加の承認ステップや MFA を必須化することで、NIST CSF “Protect - Access Control (PR.AC-4)” の要件を満たし、インシデントリスクを低減。

3-2. Passwordless 認証 / FIDO2

  • Entra ID はパスワードレス認証(FIDO2 セキュリティキー、Windows Hello、Microsoft Authenticator アプリなど)に対応し、NIST が推奨する強力な MFA(AAL2 以上)を実装可能。

  • NIST SP 800-63B では、パスワードの脆弱性や盗難リスクを低減するため、ハードウェアベースのキーや生体認証を推奨しており、Entra ID の Passwordless オプションはその好例。

3-3. Monitoring / Logging

  • NIST CSF “Detect” 領域(DE.AE, DE.CM)や NIST SP 800-53 AU ファミリ(監査とアカウンタビリティ)では、ログの取得・分析が重要。

  • Entra ID では、以下のログをAzure Monitor / Sentinelに送信して分析可能:

    • Sign-in Logs(ログイン成功/失敗)

    • Audit Logs(ユーザー・グループ管理操作やロール付与など)

  • これらを SIEM(Azure Sentinel)で相関分析し、不審なサインインや権限変更を早期検知することで、NIST の監査要件を満たす。

4. Zero Trust アーキテクチャとの融合

4-1. NIST SP 800-207 (Zero Trust Architecture)

  • NIST SP 800-207 で策定された Zero Trust アーキテクチャの原則は、「すべてのリソースを常に疑い、継続的に検証する」という概念。

  • Entra ID を軸に、条件付きアクセスやデバイスコンプライアンス、常時トークン再評価(Continuous Access Evaluation)を実装することで、Zero Trust のコアを実装可能。

4-2. Azure AD / Entra ID の Zero Trust 対策

  • Continuous Access Evaluation (CAE): 特権昇格やパスワード変更が発生すると、セッションを即座に無効化し再認証を強制。

  • Defender for Cloud Apps(旧 MCAS)との連携で、セッションをリアルタイム監視し、リスク発生時に強制 MFA or セッション切断。

5. 企業導入の実例

5-1. 金融機関 A 社の事例

  • 要件: NIST CSF 準拠 + FISC ガイドラインに基づくセキュリティ強化

  • 実装:

    1. Entra ID の MFA を全ユーザーに強制 (AAL2 相当)

    2. 条件付きアクセスで国外 IP からの管理者操作をブロック

    3. 特権アカウントは PIM でオンデマンド付与、監査ログを Azure Sentinel に集約

  • 効果: 過度な権限滅多付与が解消され、NIST SP 800-53 AC-6 (Least Privilege) 等を満たした内部統制を実現。

5-2. 製造業 B 社の事例

  • 要件: 機密設計図の取り扱いに NIST 800-171(CUI 保護)レベルの認証強度

  • 実装:

    1. Entra ID + FIDO2 セキュリティキー を使ったパスワードレス MFA → AAL3 に近い強度

    2. Conditional Access でデバイスが Intune 管理下にある場合のみファイルサーバーにアクセス可

    3. ログインの失敗回数やリスクシグナルを Sentinel で監視

  • 効果: CUI (Controlled Unclassified Information) 保護の要件を満たし、サプライチェーンを含めたセキュリティ強化。

6. 本まとめと活用メリット

  1. NIST の認証基盤ガイドライン(SP 800-63, SP 800-53 AC/IA) と Entra ID の機能セット(MFA, Conditional Access, PIM 等) を組み合わせると、

    • AAL2~3 相当の多要素認証

    • 最小権限・特権アカウント管理

    • ログ監査とインシデント対応

    • ゼロトラストアーキテクチャ
      を実現しやすい。

  2. 組織のメリット:

    • 国際標準(NIST)に準拠 することで、監査法人や顧客からの要件をクリアしやすい。

    • 一元化された Entra ID で SaaS / オンプレ / Azure の認証を統合できる。

    • パスワードレス や 動的アクセス制御 による生産性向上とリスク低減。

  3. 導入の際の留意点:

    • 対象ユーザーやデバイスの環境に合った認証方法(MFA or FIDO2)を選定。

    • 過度な条件付きアクセスやポリシー設定で業務が止まらないよう、段階的ロールアウト。

    • 監査ログの集約と分析運用(Sentinel 等)を確立し、インシデント発生時に迅速対応できる体制を整備。

7. まとめ:NIST と Entra ID の最適な組み合わせ

  • NIST SP 800-63 に示されるアシュアランスレベル(IAL, AAL, FAL)を参考に、Entra ID(旧 Azure AD)の MFA, Passwordless, Conditional Access などを活用すれば、企業固有の要件に応じた強固な認証基盤を構築可能です。

  • NIST SP 800-53 / CSF のコントロールを満たすためには、特権ID管理(PIM) や 監査ログ分析(Sentinel 連携)、Zero Trust アプローチが有効な手段となります。

  • 製造業での CUI 保護や金融業での厳格な認証要件など、幅広いユースケースに応えられる拡張性を備えたプラットフォームが Entra ID の強みです。

このように、NIST 規格の要求を踏まえつつ Entra ID を中核とした認証基盤を整備することで、国際標準レベルのセキュリティと運用効率を両立することができます。今後もゼロトラスト時代の標準として、NIST ガイドラインと Microsoft Entra ID の強力な連携がさらに注目されていくでしょう。

8.こんなお悩み、ありませんか?

  • 「NIST CSF をうちの認証基盤にどう落とし込めばいいのか、具体的にわからない」

  • 「特権アカウントを安全に管理したいが、現在は管理者権限が分散していてリスクがある」

  • 「海外との取引・連携が多く、国際標準 (NIST) に沿った ID 管理を導入しないと監査や顧客要件を満たせない」

  • 「ゼロトラストを実現したいが、条件付きアクセスやデバイス管理など設計が複雑で手が回らない」

上記のような課題を抱えている企業は多く、NIST ガイドラインの要求に合わせてEntra ID の機能を的確に使いこなすには、専門的な知識と経験が必要です。

9. ご相談・お問い合わせ

9-1. 弊所のご支援内容

  1. NIST を踏まえた要件定義サポート

    • NIST SP 800-63, SP 800-53, CSF などのガイドラインをベースに、貴社の業種・リスクレベルに合った認証要件を策定。

    • AAL(認証強度)や IAL(身元確認レベル)といったフレームワークを、現実的なコストと運用に落とし込みます。

  2. Entra ID(旧 Azure AD)導入・高度化支援

    • MFA、条件付きアクセス、Privileged Identity Management (PIM)、Passwordless (FIDO2)、監査ログ統合などを組み合わせ、ゼロトラストを実践。

    • Azure Sentinel と連携したログ分析やインシデント対応プロセス整備も含め、エンドツーエンドでご支援いたします。

  3. 監査・コンプライアンス対応

    • 国際標準(NIST、ISO 27001 など)や国内外法規(GDPR、個人情報保護法、FISC ガイドライン等)への適合性を確認し、監査法人や取引先からの要求に対応できるようサポート。

    • 必要に応じてペネトレーションテストやセキュリティ診断も実施し、継続的に運用改善を図ります。

9-2. お問い合わせの流れ

  1. ヒアリング

    • 貴社の業種、システム規模、既存の ID 管理状況、想定されるリスクを把握させていただきます。

  2. 簡易アセスメント

    • 現状の要件と NIST ガイドラインの差分を分析し、Entra ID を中心とした移行プランの大枠をご提示。

  3. 詳細提案・導入計画

    • 要件定義~設計・運用フェーズまでの具体的なステップやスケジュール、費用感をお見積もりします。

  4. 導入サポート・運用開始

    • スムーズな導入と、運用後のアフターサポートや監査対応をフォローアップ。

お問い合わせ

NIST と Entra ID は、国際水準のセキュリティ要件と実運用に耐える認証基盤を両立するベストプラクティスの組み合わせです。ゼロトラストが進む現在、パスワードレス MFA、特権アカウント管理、ログ監視 などを包括的に実装することで、組織のセキュリティレベルを飛躍的に高められます。

弊所では、要件定義から運用支援までフルサポートいたしますので、ぜひお気軽にご相談ください。NIST ガイドライン準拠とEntra ID の先進機能を掛け合わせた安心・安全な環境を一緒に構築しましょう!

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