DPIA(データ保護影響評価)とライフサイクル(技術的側面)
以下では、DPIA(データ保護影響評価)とデータライフサイクル管理に関する技術的観点を、Azure 環境における具体的パラメータや設定例を含めて概要を記述します。特に機密度の高い個人データを大量に扱う場合や、機械学習などのハイリスクな処理を実施する際、技術面でどのようにリスクを分析し、ライフサイクルを制御するかがポイントとなります。
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1. 高リスク処理時のDPIA実施
1-1. データリスク分析の技術項目
(A) データカテゴリー・ボリュームの特定
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データ分類ラベル:
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例: “Public”, “Internal”, “Confidential”, “Highly Confidential (PII)”など
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Azure Purview(Microsoft Purview)やカスタムメタデータを用いて、機密データの検出・分類を自動化。
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パラメータ例:
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Purview で “Sensitive Info Types” を定義 (個人情報・クレジットカード番号・マイナンバー 等)。
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データセット単位でラベル “PII: True” や “Critical: True” を付与。
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(B) データフロー図 / アーキテクチャ設計
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例: Azure ML + Azure Storage + Azure SQL
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データの流れ: インジェスト (Data Factory) → 保管 (Blob / Data Lake) → 前処理 (Databricks / Synapse) → ML 推論 (Azure Machine Learning) → 結果書き込み (SQL DB)
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パラメータ例:
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Data Factory: パイプライン名 pii-ingestion-pipeline
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Storage アカウント: mystorageaccount (VNet 経由アクセス必須、public endpoint 無効)
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ML ワークスペース: “mlworkspace-pii” (Key Vault と連携し、機密データを暗号化)
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(C) 技術的リスク評価
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暗号化の実装状況 (At Rest, In Transit)
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Key Vault (BYOK/HSM) の使用有無、SQL Always Encrypted, TDE (Transparent Data Encryption) など
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アクセス制御
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Azure AD RBAC, Conditional Access, Privileged Identity Management (PIM)
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監査ログ
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Azure Monitor / Sentinel の連携状況、Log 保管期限 など
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疑似匿名化 (Pseudonymization)
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敏感な個人情報はハッシュ化やトークン化を実施
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パラメータ例: 「Email列 → SHA256 + ソルト」「リレーション分割」など
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2. データライフサイクル管理
2-1. 保持期間・自動削除ポリシー
(A) Azure Storage ライフサイクル管理
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Lifecycle Management ポリシーにより、一定期間経過後に “Hot → Cool → Archive” 層へ自動移行、または削除。
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パラメータ例:
json
{ "rules": [ { "name": "MoveToCoolAfter30Days", "enabled": true, "type": "Lifecycle", "definition": { "filters": { "prefixMatch": [ "logs/" ] }, "actions": { "baseBlob": { "tierToCool": { "daysAfterModificationGreaterThan": 30 }, "tierToArchive": { "daysAfterModificationGreaterThan": 180 }, "delete": { "daysAfterModificationGreaterThan": 365 } } } } } ] }
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設定例: “logs/” プレフィックスのファイルを 30 日でCoolに、180 日でArchiveに移動し、365 日経過で削除。
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(B) Azure Backup / Recovery Services Vault
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バックアップポリシー:
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例: “Daily Full Backup, 保持期間: 30 日” / “Weekly Full Backup, 保持期間: 1 年”など
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パラメータ例:
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バックアップ ポリシー名: daily-backup-policy
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Retention Range: 30日 / 180日 / 365日
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Application Consistent Backup:
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SQL DB や VM の整合性を保つには VSS (Windows) やファイルシステムフリーズ (Linux) 連携が必要。
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高度な機密データの場合、バックアップ先のストレージ暗号化 (BYOK) も検討。
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(C) Azure SQL Database / Managed Instance の自動削除ポリシー
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Automatic Retention: TDE 有効化 + PITR (Point in Time Restore) の保持期間をシステム要件に合わせて設定。
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パラメータ例: 7 days ~ 35 days (PITR)
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長期保存(LTR)が必要な場合、LTR ポリシーで “月次バックアップを X 年間保持” などを設定。
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2-2. データ削除・アーカイブフロー
(A) GDPR の「忘れられる権利」対応
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Data Subject Request (DSR) 対応を技術的に実装:
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例: ユーザーID をキーとして、SQL や Blob に保存された個人情報を特定 → 論理削除/物理削除処理
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バックアップ/キャッシュ: すぐには削除できない場合、“データを復元可能に保つ法定要件” vs. “データ主体の削除要請” のバランスを考慮し、法務と連携して設定。
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パラメータ例:
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“UserDeletionFunction” (Azure Functions)
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トリガー: HTTP 要求 (認可後)
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操作内容: Cosmos DB / SQL DB / Blob などから該当キーのレコード削除 → Log Analytics へログ送信
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例外ケース: “RetentionPolicyActive=True” の場合は削除せずフラグのみ設定。法定期間満了後にバッチ削除。
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(B) 疑似匿名化と再識別フロー
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疑似匿名化: DB 上の “Name, Email” を別DBに分割し、ID (GUID) を紐付ける方式
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再識別必要時: 厳格な権限コントロールの下、Key Vault 等でトークン・復号鍵を管理。
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パラメータ例:
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テーブルスキーマ: “personal_info_table” には “user_id, hashed_email, hashed_name” のみ格納
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復号キー: pii-reidentify-key を Key Vault Premium の “HSMバックエンド” に保管。
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デフォルト権限: 誰も Sign/Verify/Unwrap ができない → 特権アカウントだけが Just-In-Time でキー操作権限を取得可 (Azure AD PIM)。
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3. サポーティング技術とパラメータ例
3-1. Azure Policy & Purview (データガバナンス)
(A) Azure Policy
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機密データ保護のポリシー:
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“すべての Storage アカウントに TLS 1.2 を強制”
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“Public Network Access = Disabled” で機微データ用ストレージをインターネットから遮断
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パラメータ例:
json
{ "if": { "field": "type", "equals": "Microsoft.Storage/storageAccounts" }, "then": { "effect": "deny", "details": { "requirements": [ { "field": "Microsoft.Storage/storageAccounts/enableHttpsTrafficOnly", "equals": true } ] } } }
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適用範囲: Subscription / Resource Group
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違反リソースがあれば作成・更新を拒否 or 監視
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(B) Microsoft Purview (旧 Azure Purview)
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データカタログ&リネージュ:
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自動スキャンで DB / Storage / BIツール などにある PII 情報を検出し、可視化する。
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パラメータ例:
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Purview アカウント: “purview-pii-management”
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スキャンスケジュール: 週 1 回 / 月 1 回
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センサ: “Azure SQL Connector”, “Azure Blob Connector”
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分類: “PersonalData”, “EmailAddress”, “TaxNumber” etc.
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3-2. ログ・監査トレイル
(A) Azure Monitor / Azure Sentinel
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取りこぼしなくログを集約: Activity Log / Diagnostic Log / SQL Audit Log / Key Vault Log
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パラメータ例:
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Log Analytics Workspace 名: “law-prod-pii-region1”
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データ保持期間: 90 日 ホット + 1 年 アーカイブ
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Sentinel Rule: 「異常な場所からの大量データダウンロードを検知 → アラート&自動ブロック」
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DSR(削除要求)操作ログのトレース:
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誰がいつ「ユーザー削除関数」を実行したか、成功/失敗ログを残す。
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監査時に提出できるよう長期保管ポリシーを設定。
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4. DPIA フローとの連携
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技術的リスク整理 → 法務部に提供
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新規システム導入 (ML, Big Data 分析) 時に、データフロー図・暗号化方式・RBAC 設計などを一覧化。
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DPA(Data Processing Addendum)や SCC(Standard Contractual Clauses)の範囲と矛盾がないか確認し、法務部へ共有。
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DPIA ドキュメント作成
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上記技術情報を踏まえ、目的・リスク・対策・残留リスクを法務部が文書化。
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監査機関やコンプライアンス委員会の承認を得る際、Key Vault 設定スクリーンショットやLifecycle Management ポリシーなどを証拠資料として提示。
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定期レビュー・改善
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DPIA は一度きりで終わらず、システム更新やデータ取り扱い範囲が変わるたびに再評価。
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Azure Policy / Purview レポートで変更点を検知 → 法務部と連携して DPIA 更新。
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5. まとめ
5-1. 技術的ポイントのおさらい
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高リスク処理には: Azure 上でのデータフローを明確化し、
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暗号化 (At Rest/In Transit)
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疑似匿名化
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RBAC / Key Vault を組み合わせて機微データを保護。
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データライフサイクル:
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Retention/Deletion ポリシー をストレージやバックアップ設定に落とし込み、法的要件(保管義務期間、忘れられる権利等)と整合。
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Azure Policy、Lifecycle Management、バックアップ ポリシー、DSR 用バッチ処理/関数などを連携。
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ログ管理と監査対応:
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Log Analytics / Sentinel で一元的に監査証跡を収集・長期保管。
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DSR 実行ログやエラーログも含め、どの担当者が何を操作したかを追跡できるようにする。
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5-2. 運用フローとの統合
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IT部門 → 法務部: 技術仕様、セキュリティ設定、リスク箇所をドキュメント化。
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法務部 → IT部門: DPIA の結果から導かれる制限事項(BYOK 必須、海外リージョン使用制限、Retention 期間など)をシステムに反映。
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継続的レビュー: システム更新や機能追加のたびに“DPIA 再評価 + 既存 Azure 設定の見直し”を実施。
これらを行うことで、GDPR のDPIA要件や国内外の個人情報保護規制に対応しながら、Azure 環境での機密データ処理を安全かつ効率的に運用可能となります。