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1. DPIA(データ保護影響評価)の技術的実装
DPIA の実施には、NIST SP 800-53 の**リスク評価(RA-3)**に基づき、Azure 環境におけるデータ処理のリスクを洗い出し、適切な保護対策を実装することが求められます。Azure では、Microsoft Purview を利用してデータフローの可視化を行い、Defender for Cloud によるセキュリティリスク分析を活用することで、システムの脆弱性やリスクを特定できます。
また、リスク管理のフレームワークとして、NIST SP 800-37 のリスクマネジメントフレームワーク(RMF)を参照し、Azure Policy を使用してコンプライアンス要件の適用を強制することができます。さらに、NIST SP 800-171 の**アクセス制御(AC-1, 3.1.2)**に準拠し、Azure RBAC(Role-Based Access Control)を活用して、機密データへの最小権限アクセスを実現することが望まれます。
2. 暗号化・疑似匿名化の適用
NIST SP 800-53 の**暗号鍵管理(SC-12)**では、機密データを保護するために適切な鍵管理を確立することが求められています。Azure では、Azure Key Vault(BYOK/HSM) を利用して暗号鍵を安全に管理し、Microsoft 管理のキーではなく、利用者自身が完全にコントロールできる方式を推奨します。
また、NIST SP 800-171 の**暗号化によるデータ保護(3.13.11)に従い、Azure SQL Database ではTDE(Transparent Data Encryption)を有効化し、データを常に暗号化した状態で保存することが推奨されます。さらに、個人情報の保護のためには、NIST SP 800-122 の疑似匿名化(Pseudonymization)**の原則に従い、Azure Data Factory を活用してデータのマスキングや疑似匿名化を実施することが望ましいです。
データ転送時の保護については、NIST CSF のデータ保護(PR.DS-5)に基づき、Azure SQL のAlways Encrypted や Azure Blob Storage の暗号化を活用することで、保存データおよび転送データの安全性を確保できます。
3. データライフサイクル管理
NIST SP 800-53 の情報保持ポリシー(SI-12)では、データのライフサイクルを管理し、適切な保持および削除のルールを策定することが求められています。Azure 環境では、Azure Storage Lifecycle Management を活用し、一定期間経過後にデータをホットストレージからクールストレージ、最終的にはアーカイブへ自動移行し、適切なタイミングで削除することが可能です。
また、NIST SP 800-171 のメディアの消去(3.8.3)に基づき、Azure Purview のData Loss Prevention(DLP) 機能を活用して、不要になったデータを特定し、ポリシーに従って完全に削除することが推奨されます。さらに、NIST CSF のデータ保持と廃棄(PR.DS-2)に準拠し、Azure Backup のRetension Policy を適用して、法定要件に沿った長期保存ポリシーを設定することが望ましいです。
4. データ主体の権利(削除・訂正・アクセス要求)
GDPR の**「忘れられる権利」(Right to be Forgotten)に対応するため、NIST SP 800-53 のインシデント対応(IR-4)** に従い、データ主体からの削除や訂正のリクエストに適切に対応できる仕組みを構築する必要があります。Azure 環境では、Azure Functions を利用してデータ削除プロセスを自動化し、Azure Cosmos DB や SQL Database のデータを削除した後、Azure Monitor に記録を残すことで、適切な監査証跡を確保できます。
また、NIST SP 800-171 のデータアクセス管理(3.1.20)では、データ主体のアクセス権を適切に管理することが求められています。Azure AD B2C を導入し、個人ユーザーが自身のデータにアクセスし、管理できるようにすることで、この要件を満たすことが可能です。さらに、NIST CSF のアクセス管理(PR.AC-1) に基づき、Azure Conditional Access を設定し、データへのアクセスが適切な条件下でのみ許可されるようにすることが推奨されます。
5. DPIA の技術的対応と文書化
DPIA を適切に実施し、NIST CSF に準拠するためには、以下の手順が必要です。
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データ流通の特定
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Azure Purview を使用して、個人データの流れを可視化し、どのデータがどこで処理されるかを把握する。
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リスク評価
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Microsoft Defender for Cloud を活用して、データの安全性を評価し、潜在的なリスクを分析する。
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リスク軽減策の実施
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Azure Key Vault + Always Encrypted を利用し、データの暗号化を徹底する。
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監査証跡の管理
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Azure Sentinel によるログ監視を実施し、不正アクセスやデータ漏洩を検知できる仕組みを整備する。
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データ削除 / DSR 対応
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Azure Functions による削除リクエストの自動処理を実装し、データ主体からの要求に迅速に対応する。
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6. まとめ
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DPIA 実施の技術要件
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NIST SP 800-53 / 800-171 / CSF に基づくリスク評価
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Azure Purview + Microsoft Defender for Cloud でデータ流通とリスク可視化
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データライフサイクルの管理
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Azure Storage Lifecycle Policy + Azure Backup Policy で保持期間を管理
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削除リクエストを Azure Functions で自動処理し、監査ログを Azure Sentinel に保管
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IT部門と法務部門の連携
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Azure Policy で法的要件を強制適用
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DPIA 文書を監査機関に提出できる形で技術仕様と整合
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これらの施策を Azure 環境で適用することで、NIST の各規格と GDPR/APPI などのデータ保護要件を満たし、クラウド環境における適切な DPIA の実施とデータライフサイクル管理を実現できます。