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暗い密約 —— 虚飾の焦点V

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月25日
  • 読了時間: 10分




はじめに

私がこの業界に身を置くようになってから、それこそ数えきれないほどの「汚れ仕事」を目にしてきた。もちろん、大半のブランド関係者は真面目で誠実な職人魂を持ち、お客様を大切にする意識で仕事をしている。だが、それゆえに目立たないだけで、裏ではとんでもないことが平然と行われているのも事実だ。これから書くのは、FDGキャピタルという巨大ファンドが、ある「ラグジュアリーの魂」を摘み取ろうとした“本当の現場” についての、私の生々しい体験談だ。名刺一枚、契約一つで人の人生を翻弄し、時には脅しや買収をも辞さない彼らの手法……。私は、そんな“銀座の影”に巻き込まれた人々を目の当たりにしてきた。そして、いま振り返っても鳥肌が立つほどの“闇”を、少しでもあなたに伝えたいと思う。

第一章:きっかけは一通のメール

リュクールやパリージャ、そして新興ブランド・アルマロッサへの暗躍が報道され、FDGキャピタルはさすがに一時的に世間のバッシングを浴びていた。だが、そんな状況も長くは続かない。メディアの関心は常に移ろいやすい。数週間も経てば、大半の人々はこの騒動など忘れてしまう。私が危惧していたのはまさにそこで、火消しさえ終わってしまえば、彼らはまた新たなターゲットを探し始めるはずだと思っていた。

そんなある日、私のプライベート用メールアドレスに「あなたと話がしたい」という件名のメッセージが届いた。差出人名は見覚えがなかったが、本文には「FDGキャピタルと対立し、行き場を失った者です。情報をお渡ししたい。ですが、会って直接話がしたい」とだけ書かれている。最初は正直「怪しい勧誘か?」と疑った。だが、もし本当にFDGキャピタルと対立しているのだとすれば、こちらも無視するわけにはいかない。何か新たな爆弾情報があるかもしれない……。

私は返信で「どこで会えるのか?」と訊ねた。数時間後に返ってきたのは、新橋の雑居ビルにある小さなカフェバー の名前と日時だけだった。正体不明、場所も場末感が漂う。怪しさ満点だ。しかし、こういう“泡沫”の場にこそ、本音が隠れていることがある——そんな予感がした。

第二章:場末のカフェバー

約束の日、私は夜の新橋に降り立った。銀座からほど近い場所でありながら、オフィス街と飲み屋街が入り交じる独特の混沌が漂うエリアだ。指定された雑居ビルは、外観からして決して“綺麗”ではない。エレベーターも古びており、ボタンを押すたびにギシギシと異音がする。4階で降りると、薄暗い廊下の突き当たりに**「Cafe & Bar Lydian」** と書かれた安っぽい看板が掲げられていた。

扉を開けると、中は数席のカウンターと小さなテーブルが一つか二つあるだけのこぢんまりした空間。バーというよりは“煙草の匂いのする喫茶店”とでも言ったほうがしっくりくる。若干のカビ臭さも混ざっていて、銀座の一流ラウンジとはかけ離れた雰囲気だ。カウンターの向こうにいるマスターらしき男性に声をかけようとしたとき、奥のテーブル席で手を挙げる人物がいた。「こちらです。初めまして——三條さん、ですよね?」

姿を見て、私は一瞬言葉を失った。そこにいたのは、FDGキャピタル日本支部の社員バッジを付けていた人物 だったからだ。

第三章:裏切り者の告白

男は私を見るなり、深々と頭を下げた。「……はじめまして、私はFDGキャピタルに籍を置いていた者です。名前は伏せさせてください。いま、辞める手続きを進めていますが、引き留められていて……」彼は顔色が悪く、挙動も落ち着かない。まるで誰かに監視されているのではと思うほどの警戒ぶりで、周囲を何度も見渡していた。

聞けば、彼はFDGキャピタルの「アナリスト」と呼ばれるポジションに就き、日本国内のラグジュアリーブランドの買収候補をリサーチする役目を担っていたという。最初は「将来有望な企業を見つけて投資する」のが使命だと思っていたが、入社してしばらくすると、裏では“脅し”や“買収後の大量リストラ”などが当たり前に行われている現実を知ったそうだ。「私が知っているだけでも、アルマロッサ以外にも2、3の若いブランドが既に“潰されかけている”んです。でも、表に出ていない。契約書に“口外禁止”が厳しく書かれていて……」男は震える声で語る。自分も会社に加担していたという罪悪感があるのか、時折目を背けるようにして俯く。

そして彼がテーブルの下から取り出したのは、分厚いファイルだった。「ここに、FDGキャピタルが日本国内で裏から進めてきた“ラグジュアリーブランド買収工作”の詳細があります。もう私は耐えきれない。三條さんのような方なら、正しく使ってくれるかもしれないと思って……」

第四章:悲痛な真実

ファイルに記された内容は、私が以前入手した“アルマロッサ再編計画”をさらに上回る衝撃的なものだった。対象企業リスト には、リュクールやパリージャ、エレスといった老舗ブランドの子会社や下請けだけでなく、小規模で独特の技術を持つ工房やデザイナーズブランドが何十も列挙されている。その横には「優先度A」「優先度B」と振り分けがあり、Aランクには“今すぐ投資回収しやすい”と分析された企業群が並んでいた。

さらに驚いたのは、「報復措置マニュアル」 と名づけられたセクションだ。—「デザイナーが抵抗した場合の訴訟手段」—「競合ブランドの不倫スキャンダルを探り、SNSで拡散する」—「主要スタッフの経歴を徹底調査し、些細なミスでも大罪のように報道させる」いずれも、企業倫理とはほど遠い“卑劣極まりない手法”が詳細に書かれていた。

私は目を通すうちに、吐き気を覚えた。彼らの目的は決して“企業の成長”などではなく、“喰えるものは喰い、邪魔なものは徹底的に貶める” ただそれだけだ。この男がここまでして私にファイルを渡すのは、相当な覚悟がいるだろう。万が一FDGキャピタルにバレれば、訴訟や身の危険すらあり得る。

第五章:怯える元アナリスト

「……正直、どこまで耐えられるか自分でもわかりません。会社側から“辞めるなら一筆書け。社内情報を漏らさないと誓約しろ”と迫られています」男は震えながら、ちらりとビルの入口方向を見た。まるで誰かが乗り込んできてもおかしくないといった恐怖に怯えているようだ。「大丈夫ですか? ここまで話して……」私が声をかけると、彼は笑みとも苦笑ともつかない顔で答える。「大丈夫なわけ、ないですよね。でも、もう止められない。私がすべて黙り込んでいたら、どんどん新たな被害者が出るだけです」

静まり返った店内で、男のすすり泣く声が小さく響いた。私はどう言葉をかけていいのか分からなかった。ただ、「この資料、必ず有効に使わせてもらいます」とだけ告げるのが精一杯だった。

第六章:メディアへの再アプローチ

その夜、私は資料のコピーを急いでとり、データ化もし、複数のジャーナリストの知人へ同時に送付した。今回こそ、より強力な後ろ盾が必要だ。幸い、前回アルマロッサ問題を取り上げてくれたファッション誌や経済誌だけでなく、テレビ局の情報番組のデスクとも繋がりができていた。「これが事実なら、大きなスクープですよ。ただ、証拠がどこまで確実なのか……。内容が内容だけに、法的にかなり厳しい勝負になると思います」電話口から伝わる相手の声は興奮混じりだった。

私はひたすら訴えた。「信憑性が高いと断言できます。私自身、FDGキャピタルの手口に巻き込まれかけたブランドを何度も見てきました。できるだけ早く世に出してほしい。でも、くれぐれも慎重に準備してください。相手は世界規模のファンドですから」

ジャーナリストたちは取材班を結成し、FDGキャピタルがリストアップしているいくつかの小規模ブランドや工房を取材する動きを見せ始めた。しかし、それを察知してか、彼らの多くは“口をつぐんでしまった”という。脅しなのか懐柔なのか——どちらにせよ、FDGキャピタルの“対策”はとにかく早い。

第七章:暗い取引と引き換えの沈黙

取材が進むにつれて明らかになったのは、“根回し”の速さだけでなく、金で解決しようとするあからさまな行動だ。一部の工房は、突然FDGキャピタルの代理人を名乗る人物から“大口受注”の話を持ちかけられていたという。「あなたの工房が作る革パーツは素晴らしい。うちの傘下企業に毎月数千点、納品してほしい。その代わり……今回の取材には“特にコメントしない”ように頼む」高額の取引条件をちらつかせ、世間への告発を未然に防ごうとしていたのだ。

ある職人が私に打ち明けてくれた。「正直、うちも資金繰りが厳しいんです。あんな好条件を断ったら、工房を続けていけないかもしれない。……だから、何も言えないんですよ」

私は胸が苦しくなった。これこそがFDGキャピタルの狙いなのだ。声を上げようにも、経営が危うい小さな工房やブランドは“金”と“脅し”の二段構えで塞がれてしまう。

第八章:揺れるメディアの良心

ジャーナリストたちが手に入れた証言や書類は、確かに衝撃的だったが、当のメディア側も「放送局や雑誌のスポンサーに外資系ファンドが入っているかもしれない」という問題を抱えていた。「もし上層部から“待った”がかかったら、記事も番組も潰される可能性が高い。それでもやるべきだろうか?」ある記者は私にそう漏らした。

私だって自分が置かれている状況を考えれば、こうした“ネタ元”として動くのはリスクが大きい。だけど、いまここで踏みとどまれば、FDGキャピタルの暗躍は形を変えて永遠に続くだろう。イザベラのような若手デザイナー、リュクールやパリージャの周辺で支えている下請け工房、そしてこれから新しいブランドを立ち上げようとする人々——彼らがすべて“食い物”にされるかもしれない。

第九章:決行の日

最終的に、大手経済誌の一つとテレビ情報番組のプロデューサーが手を組み、FDGキャピタルの買収工作を一斉に報道する ことになった。事前にリークした資料と、元アナリストの証言を組み合わせた特集記事とドキュメンタリーが、ほぼ同時に発表される段取りだ。撮影チームは匿名の職人たちの声、極秘の契約書の一部、そして社内メールらしき文章をカメラの前で公開するという形で、かなり衝撃的な内容を盛り込んでいた。

私がもっとも心配していたのは、放映や掲載直前に“圧力”でストップがかかるケースだ。だが、今回に限っては複数のメディアが協調し、同じタイミングで出すことで、1社だけが潰されるリスクを減らす作戦を取っていた。「相手が大きいからこそ、逆に一斉にやれば一気に世間の注目を集められる。今のうちに膿を出し切るしかない」協力してくれたプロデューサーの言葉には覚悟がにじんでいた。

第十章:闇は完全に消えない——それでも

報道は大きな反響を呼んだ。ネット上では「やっぱり金の亡者か」「ブランドを利用するだけ利用して壊すなんて許せない」といった怒りが爆発し、SNSでハッシュタグが拡散。一時的にFDGキャピタルの名は「最悪のハゲタカ」と揶揄され、株価にも影響が出た。彼らが完全に引き下がることはないだろう。組織としての資金力と法務力は桁違いだ。実際に、局や出版社には数通の“警告文”が届いたとも聞いている。

それでも、これだけ大きく報じられたことで、“ラグジュアリービジネスの裏には怖い力がある”という事実は広く知れ渡った。小さな工房や新興ブランドが、安易にFDGキャピタルの誘惑に乗せられないようになっただけでも、一歩前進と言えるだろう。もちろん、私自身にも嫌がらせのようなメールや匿名電話が届くようになった。「これ以上首を突っ込むな」「お前が次の標的になるぞ」——そんな文面ばかりで、普通なら萎縮してしまうかもしれない。だけど、私はもう慣れてしまった。彼らがどんなに脅してきても、私はこの業界の“真実”を知っているし、守りたい人々がいるからだ。

銀座の夜は相変わらず眩く、人々は新作バッグやジュエリーに目を輝かせている。その光の裏で、今日もどこかで買収や脅迫が繰り返されているかもしれない——しかし、少なくとも私は、その闇を見て見ぬふりはしたくない。

いつか、この街が本当の意味で“美しい芸術”と“健全なビジネス”で成り立つようにと願いながら——また新たな案件へと駆け出すのだ。これが、私なりの“銀座”との付き合い方なのだから。

終わり —

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