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続編:堕ちた果実 —— 虚飾の焦点VII

  • 山崎行政書士事務所
  • 1月25日
  • 読了時間: 11分




プロローグ

高層ビルが立ち並ぶ銀座の夜は、決して静まり返ることなく、どこかで人々の欲望や野心がうごめき続けている。夜が深まるほどに溶け合う光と闇。その狭間で、FDGキャピタルという“巨大な闇”に挑み続けるブランドコンサルタント・三條岳士(さんじょう たけし)は、身をすくめながらも闘志を燃やしていた。しかし、相手は一筋縄ではいかない。“脅し”と“懐柔”を巧みに操り、企業の中枢をまるごと呑み込みながら、都合の悪い情報は力ずくで封じ込めてくる。それでも三條は、一人の女性が命がけで託してくれた資料と“真実”を胸に、あくまで真っ向から立ち向かおうとしていた。この物語は、そんな男の“胆力”と“執念”の記録である。

第一章:目撃者の帰還

「三條さん……わたし、もう逃げたくありません」病室の一角。あの夜、路上で転倒し、負傷したまま救急車で運ばれた彼女(名前は伏せる)が、包帯の巻かれた手首を撫でながら口を開いた。意識を取り戻した彼女を見舞うため、三條は病院を訪れていた。血の気の引いた顔は痛ましかったが、瞳の奥にかすかな炎が宿っているのが分かる。

「よく戻って来てくれましたね」三條は声を潜めて答える。「でも、無理は禁物ですよ。あなたが身の危険を感じるなら、一旦身を隠す方法も——」言いかけたところで、彼女はゆっくり首を振った。「いま、このまま黙っていたら……会社はFDGキャピタルの思うがまま、職人たちもみんな犠牲になる。それに、あの上層部の連中がどんな裏金を受け取っているかも知ってしまった以上、私が逃げてもずっと後悔すると思うんです」

三條は、彼女の決心が固いことを感じ取った。確かに、このままでは企業の“魂”が食い荒らされ、働く人々が泣き寝入りする未来が待っている。それを知りながら見過ごすことはできない。「わかりました。だったら、一緒に戦いましょう」三條は深くうなずく。「まずは、あなたの証言を確保することから始めます。メディアも動いていますが、もっと直接的な“勝負の場”を作らないと、FDGキャピタルは潰せません。とくに……あの連中が食い込んでる“会社の株主総会”とかね」

第二章:一人の銀行マンとの再会

三條は病院を出た足で、新橋のとあるオフィスビルへ急いだ。そこで待っていたのは、石丸という名の銀行マン。かつて三條が別の案件で資金繰りの相談をした相手であり、腕利きの融資担当でもある。「よお、三條さん。相変わらず波乱の最前線にいるようだね」石丸は苦笑を浮かべるが、目は真剣そのもの。噂でFDGキャピタルの件を耳にし、何か手助けできることはないかと声をかけてくれたのだ。

「実は、あのブランドの経営陣がFDGキャピタルからリベートを受け取っていて、裏で会社を売り渡そうとしている証拠を掴んだんです。でも、相手は大金を握っている。下手に表沙汰にすれば、むしろ訴え返されかねない。だから……」三條が説明すると、石丸は顎に手を当て考え込む。「ふむ。それなら、金融面から追い詰めるのはどうだ? 彼らが企業買収を進めるには、資金調達のルートが必要だろう。そこに何か不正があれば……」銀行マンらしい視点で、冷静に可能性を探る石丸。「FDGキャピタルは海外の投資家からも莫大な金を集めているが、その中には“真っ黒”な資金が混ざっているという噂もある。もしそこを突けたら……いや、これはあくまで推測だがね」三條は目を輝かせる。「石丸さん、ぜひ協力してもらいたい。俺は企業コンサルとして商品価値やブランドを守ることはできるけれど、お金の流れを探るノウハウはない。何か糸口があれば教えてください」

第三章:消えない圧力

その頃、FDGキャピタルの日本支部長・ロバート・エヴァンスは、都心の高級ホテルのスイートルームにて企業の幹部たちと会合を持っていた。「諸君、騒ぎが大きくなりすぎると面倒だ。早い段階で“邪魔者”を排除しておかねば」グラスに注がれた高級ウイスキーを一口飲みながら、エヴァンスは淡々と言い放つ。「三條岳士というブランドコンサルが色々と嗅ぎ回っているらしいが、連中が想像するほど我々は甘くない。この業界を一度でも牛耳ろうとした者が、そんなことで引き下がるわけがない」

幹部の一人が頷き、言葉を添える。「既に問題の女性社員は“口封じ”状態だったはずが、まだ動いています。万一、我々が社員に支払っているリベートの事実が暴露されれば……」エヴァンスは微かな笑みを浮かべる。「金で買えない人間は少数派だが、今回のように“倫理”や“誇り”を振りかざす輩がいると面倒だな。だが手はある。私の部下に任せておけば、やがて彼らも黙るだろうさ」

冷たい笑いが部屋を支配する。彼らには余裕があった。多額の資金と海外勢力のコネクションにより、世論操作や法的対処なども容易い。ましてや、告発者一人程度で大きく揺らぐような組織ではない——それがエヴァンスらの自負だった。

第四章:緊急ミーティング

数日後。三條は彼女をはじめ、協力的なメディア関係者や弁護士、そして石丸らを集め、極秘のミーティングを開いた。場所は銀座から外れた小さな貸し会議室。壁には書類やメールプリントを貼り付け、時系列や関係者相関図を作成。「これはまるで企業ドラマのようだね」弁護士の林が苦笑する。「ただし、ラグジュアリー業界という派手な舞台で起きている。FDGキャピタルの資金源や、このブランドの株式構成を掘り下げれば、相当な不正が見つかりそうだ。しかし……」林は苦い顔で続ける。「問題は、これだけの証拠があっても、裁判に持ち込むまでに相手があらゆる手段で妨害してくることだ。書類が流出したり、証人が黙らされたり——危険は承知の上だよね?」

彼女は俯きながらも強く頷く。「このまま何もせず逃げるのは、もう嫌なんです。FDGキャピタルが踏みにじろうとしている職人たちの思い、そして企業の“誇り”を知ってしまったから……」

「よし、そこまでの意志があるなら最後まで行きましょう」三條の声には力がこもる。「目的は、FDGキャピタルが狙っている株主総会で“一矢報いる”ことです。あの会社の株主総会で経営陣とFDGキャピタルが手を結ぼうとしている裏取引を暴く。そこにメディアを入れ、世間の注目を浴びせる……。相手にとってこれほど嫌な展開はないはず」

第五章:暗い影の脅し

しかし翌日、三條は会社を出ようとしたところで、駐車場に停めてあった自分の車のタイヤがパンクさせられていることに気づいた。さらに、車体にはどす黒い塗料で**「次は家を壊す」** と書かれている。「またこれか……」三條は噛みしめた唇から血を滲ませながら呟く。かつて別の案件でも嫌がらせの電話や怪文書は経験しているが、ここまで直接的な破壊行為は初めてだった。(FDGキャピタルの手先がいよいよ“実力行使”に移ったか……)

警察に通報するも、“証拠不十分”として大きく動くことは期待できない。すぐに石丸や弁護士の林に連絡を取り、「最大限の警戒をしてくれ」と伝える。彼女にも自宅をしばらく別の場所に移るよう説得した。おそらく、エヴァンスらは“最後通告”のつもりなのだろう。だが、ここで引き下がったら、彼らの思う壺だ。

第六章:動き始めた株主総会

問題の会社の株主総会が迫っていた。FDGキャピタルはこの総会で大口株主の票をまとめ、経営陣を入れ替え、さらには生産部門を大幅に“合理化”する計画を打ち出すつもりだ。その舞台裏で、幹部はリベートを貪り、職人たちの雇用やブランドのアイデンティティが踏みにじられる——それが彼らのシナリオだった。

そこで三條は、彼女を中心とした社内告発者グループと接触。少なくとも数人が匿名ながらも“経営陣の裏工作”を証言する用意があるという。「これだけの人数が声を上げれば、会社側も無視はできない。FDGキャピタルが持っている株数だけで決まるものじゃない、“内部からの異議”を突きつけるんだ」三條の構想に、彼女の瞳が輝く。「そうですね。わたしだけじゃない。ほかにも黙って耐えている社員がいたんです。みんなで立ち上がれば……!」

第七章:株主総会前夜の駆け引き

総会前夜。三條は都内のホテルラウンジに呼び出された。待ち受けていたのは、意外にもFDGキャピタルのエヴァンス本人ではなく、その部下と名乗る日本人男性・岩崎。「三條さん、あなたも大変ですね。このまま突き進めば、あなた自身の評判に傷がつくと思いますが」岩崎の言葉には冷ややかな嘲笑が混じる。「我々は別に、すべてを破壊するつもりはないんですよ。ただ、古いやり方に固執している人材を入れ替え、効率的に利益を追求するだけだ。あなたもビジネスマンなら、その必要性はわかるでしょう?」

三條は涼しい顔でそれを聞き流す。「それは建前だ。だが、リベートと脅しで経営陣を屈服させ、職人を切り捨てる手法が正当とは思えない。僕は、その事実を株主や世間に示すつもりです」岩崎は表情を変えずにスッと名刺を取り出し、三條に手渡す。「これは、我々の顧問弁護士の連絡先だ。万が一、あなたが余計なことをするなら、法廷で徹底的に争うことになる。……ご承知おきください」

一見すると丁寧な態度だが、明らかな“恫喝”だった。三條はそれを受け取ろうとはせず、テーブルに置いたまま立ち上がる。「その言葉、そっくりそのままお返しします。こちらもすべての証拠を揃えて、法廷でもどこでも正々堂々とお会いしましょう」

第八章:総会当日──カタルシスの時

そして迎えた総会の当日。会場は都内の一流ホテルの大宴会場。スーツ姿の株主や取引関係者が続々と集まり、受付には人だかりができている。FDGキャピタルの関係者もVIP待遇で現れ、大口株主席に陣取る。エヴァンスは姿こそ見せないが、岩崎らが陣頭指揮を執っているようだ。同じく、会社の経営陣も厳めしい顔で待機。まるで、これから行われる議案がすべて滞りなく可決されるかのような雰囲気だ。

しかし、開会のベルが鳴り、議案説明が始まると、客席の後方に座っていた社員グループが次々と挙手し、意見を表明し始める。「今回の生産部門合理化計画は、社内での十分な検討がなされていないと考えます!」「経営陣の一部がFDGキャピタルから不当に利益供与を受けているとの疑いがあります!」

場内が騒然となる。経営陣は声を荒げ、社員たちを制止しようとするが、彼らは怯まずマイクを握る。そして、最後に病み上がりの彼女が立ち上がった。「このままでは私たちの会社は“ハゲタカ”の餌食になります! どうか株主の皆様には、私たちの声を聞いていただきたい!」

一瞬の沈黙の後、別の席から弁護士の林が立ち上がり、いくつかの資料を掲げる。「こちらは、会社経営陣とFDGキャピタルが交わしたとされるメール、ならびにリベート支払いの痕跡を示す書類です。もし必要なら、株主の皆様にもお見せできますが……いかがでしょう?」

第九章:エヴァンスの策動、しかし——

会場後方の扉がバタンと開き、そこにエヴァンスが姿を現す。「ご心配なく、弊社は正当な手続きを踏んで投資を行っています。これ以上、事実無根の誹謗中傷はおやめいただきたい」凍りつくような冷たい声と、どこか余裕のある表情。「私たちは企業価値を高めるための提案をしているだけ。生産効率が悪い部門を外注化するのは、国際的に見ても常識なんです。彼女たちが騒いでいるのは、現場を守るための感情論に過ぎません」

しかし、その言葉に惑わされる株主は思いのほか少なかった。なぜなら、先ほどから社員が次々と具体的な証拠を掲示し、経営陣の不正を赤裸々に暴いていたからだ。しかも、会場の外には複数のメディアが詰めかけ、SNSでのライブ配信までも行われている。これ以上、隠し通すのは難しい——エヴァンスの表情が険しく変わっていく。

最後に三條がマイクを握り、締めくくるように宣言した。「FDGキャピタルが提示する投資話に、もし本当に正当性があるのなら、どうぞ公平な場で審議してください。しかし、裏でリベートを渡し、経営陣を買収している疑いがある以上、私たちはこの会社を“食い物”にさせるわけにはいきません」怒号と拍手が交錯する中、株主総会の雰囲気は一変していた。

第十章:迎える決着、そして——

その後、経営陣の大半が引責辞任へ追い込まれ、FDGキャピタルとの“提携”議案も事実上の否決。エヴァンスは苦々しい顔を浮かべながら会場を後にしたが、メディアの集中取材を受け、さすがに以前ほどの強気な発言はできなかった。「ああ……終わったのかな」会場の片隅で彼女がぽつりと呟く。三條は、やや力を抜いた笑みで答える。「いや、まだ完全に終わったわけじゃない。FDGキャピタルは世界中で同じような手口を使っているし、彼らにはまだまだ金も権力もある。でも、少なくともここでは負けなかった。あなたたちが声を上げたから勝ち取れた結果だ」

遠くの方で、石丸が人混みをかき分けてこちらへ向かってくる。「どうやら会社の主要株主も“こんな不正があるなら出資を見直す”と言い始めたらしい。資金を引き上げられれば、FDGキャピタルも痛手は大きい。あいつら、今回の失敗で相当焦ってるみたいだ」三條は大きく息をつき、静かに思う——。銀座の夜は、いつも裏側で人々の野心が交錯し、金と権力のドラマが生まれる。それをひとつひとつ食い止められるわけではないが、今回のように“本気で守ろうとする人々”の力が結集すれば、不可能を可能にすることもある。

“堕ちた果実” になるはずだった会社は、かろうじて毒牙を逃れたかもしれない。だが、FDGキャピタルという巨悪は、まだ違う場所で牙を研いでいるだろう。三條は頬を緩めつつも、次の闘いに備える決意を新たにするのだった。

終わり —

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